2021年8月18日衆議院内閣委員会で、イベルメクチンについての答弁が行われました。
https://www.shugiintv.go.jp/jp/ 答弁では、「委員お尋ねのイベルメクチンに対しては様々な研究論文等が発表されておりまして、その評価が定まっているものではないと承知しております。」とされています。(0:41:14〜)
現在、世界的に論争の的となっているイベルメクチンですが、「新型コロナウイルス感染症 (COVID‐19) の予防および治療に対するイベルメクチン COVID‐19にイベルメクチンは有効か?」の論文が発表されています。
https://doi.org/10.1002/14651858.CD015017.pub2 日本語の一般語訳では、以下、内容となっています。
要点
新型コロナウイルス感染症 (COVID‐19)の治療または予防にイベルメクチンを使用することを支持するエビデンスは見つからなかったが、エビデンスの根拠には限りがある。
イベルメクチンの評価は進行中の31試験で行われており、その結果が出たらこのレビューを更新する予定である。
イベルメクチンとは何か?
イベルメクチンは、動物の腸内寄生虫や疥癬などの寄生虫の治療に用いられる薬である。安価であるため、寄生虫の発生が多い地域で広く使われている。望ましくない副作用はほとんどない。
実験室での試験では、イベルメクチンがCOVID‐19(SARS‐CoV‐2ウイルスの繁殖)を遅らせることが分かっている。しかし、ヒトでもそのような効果を得るためには、大量投与する必要がある。医薬品を規制する機関では、COVID‐19に対するイベルメクチンの使用を承認していない。本剤は、その効果を評価するために十分にデザインされた研究(ランダム化比較試験と呼ばれる)の一部としてのみ使用されるべきである。
何を知りたかったのか?
イベルメクチンがCOVID‐19患者の死亡、疾病、感染期間を減少させるのか、あるいは病気の予防に役立つのかを知りたかった。薬をプラセボ(ダミーの治療)、無治療、標準治療、またはレムデシビルやデキサメタゾンなどのある程度効果が知られているCOVID‐19の治療法と比較した研究を対象とした。ヒドロキシクロロキンのような効かない薬や、COVID‐19に効果があることがわかっていない他の薬をイベルメクチンと比較した研究は除外した。
感染者におけるイベルメクチンの効果を評価した:
‐ 死亡;
‐ COVID‐19の症状が良くなったか悪くなったか;
‐望ましくない副作用;
‐ 入院または入院期間;
‐ウイルスの体内からの排泄。
予防については、COVID‐19とSARS‐CoV‐2の感染予防効果を求めた。
実施したこと
ヒトにおけるCOVID‐19の予防または治療を目的として、イベルメクチンを調査したランダム化比較試験を検索した。イベルメクチンで治療を受ける人は、検査でCOVID‐19が確認され、病院または外来で治療を受けていることが条件だった。
研究結果を比較および要約して、エビデンスがどの程度信頼できるのかについて共通の判断基準に基づいてエビデンスの確実性を評価した。
何がわかったか?
イベルメクチンを無治療、プラセボ、標準治療と比較して検討した14件(1678人)の研究が見つかった。
治療については、入院中の中等度COVID‐19の人を対象とした研究が9件、外来患者の軽度COVID‐19の人を対象とした研究が4件だった。これらの研究では、異なる用量のイベルメクチンが使用され、治療期間も異なっていた。
1つの研究では、COVID‐19の予防を目的としてイベルメクチンが調査されていた。
また、31件の進行中の研究が見つかった。18件の研究は、まだ著者からの説明が必要であったり、未発表である。
主な結果
COVID‐19患者の入院治療
プラセボや標準治療と比較した、イベルメクチンの治療後28日目の効果は分かっていない:
‐ 死亡数の増加または減少につながる(2試験、185人);
‐ 人工呼吸器管理の必要性(2試験、185人)や酸素の必要性(1試験、45人)によって評価される患者の状態を悪化または改善させる;
‐ 望まない副作用を増加または減少させる(1試験、152人)。
イベルメクチンの治療後7日目の効果は分かっていない:
‐ COVID‐19検査の陰性を増加または減少させる(2試験、159人)。
イベルメクチンは、プラセボまたは標準治療と比較して、治療後28日目の患者の状態を改善することに、ほとんどまたは全く差がない可能性がある(1試験、73人)。また、入院期間についても差がない可能性がある(1試験、45人)。
COVID‐19による外来患者の治療
プラセボや通常の治療と比較した、イベルメクチンの治療後28日目の効果は分かっていない:
‐ 治療後28日目の死亡数の増加または減少につながる(2試験、422人);
‐ 治療後14日目に人工呼吸器管理の必要性(1試験、398人)によって評価される患者の状態を悪化または改善させる;
‐ 治療後7日目のCOVID‐19検査の陰性を増加または減少させる(1試験、24人)。
プラセボまたは通常の治療と比較して、イベルメクチンは治療後14日目の外来患者の状態を改善することに、ほとんどまたは全く差がない可能性がある(1試験、398人)。また、治療後28日目の望ましくない副作用の発生についても差がない可能性がある(2試験、422人)。
外来患者の入院について調べた研究はなかった。
COVID‐19の予防
イベルメクチンが無投薬と比較して死亡数が多いか少ないかは分からない(1試験、304人);治療後28日目の死亡者はいなかった。この研究では、COVID‐19症状 (SARS‐CoV‐2感染が確認されていない) および望ましくない副作用の発生に関する結果が報告されたが、分析に含めることはできなかった。この研究では、入院については調べていない。
エビデンスの限界は何か?
参加者が少なく、死亡や人工呼吸の必要性などのイベントが少ない14件の研究しか含めることができなかったため、エビデンスの信頼性は非常に低いものとなった。研究によって手法が異なり、QOLなど著者らが興味を持っていることがすべて報告されているわけではなかった。
このレビューの更新状況
エビデンスは2021年5月26日現在のものである。
現時点での著者の結論として、「現在の非常に低い〜低い確度のエビデンスに基づくと、COVID-19の治療または予防に使用されるイベルメクチンの有効性と安全性については不確実です。完成した研究は小規模で、質が高いと考えられるものはほとんどありません。いくつかの研究が進行中であり、レビューの更新時にはより明確な回答が得られるかもしれません。全体として、入手可能な信頼性の高いエビデンスは、十分にデザインされた無作為化試験以外でのCOVID-19の治療または予防のためのイベルメクチンの使用を支持するものではありません。」とされています。
今後の日本国内での研究結果が大規模で質が高ければ、イベルメクチンの有効性と安全性が確立されるかもしれません。
○北里大学: 新型コロナウイルス感染症に対するイベルメクチンの医師主導治験に関するお問い合わせについて
https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/news/20210806-04.html○興和株式会社: 新型コロナウイルス感染症患者を対象としたイベルメクチンの臨床試験【開発コード:K-237】を開始
https://www.kowa.co.jp/news/2021/press210701.pdf